めも箱

サラリーマン研究者のブログ

【研究紹介】毛髪に対する馴染みやすさの評価

 現在自分が興味を持っている技術に関して、面白い記事を見つけた。

毛髪のキューティクルおよびコルテックスの“なじみやすさ”の指標を算出することに成功 | DEVELOPMENT | 株式会社アリミノ

HSP値ってなに?

 この記事で述べられているハンセン溶解度パラメータ(以下、HSP値)とは、ものとものとの相性(馴染みやすさ、親和性)を数値的に表すことができる技術である。
 詳細は他に譲る(時間があれば記事にしてみたい)が、考え方のポイントは次の4つであり、この記事では主に1と2について言及している。

  1. HSP値は3種類の分子間力に起因する3つの値で構成される。
     例)物質AのHSP値:(●、▲、■)
  2. 物質にはそれぞれ固有のHSP値がある。
     例)物質BのHSP値:(○、△、□)
     結果として物質AのHSP値と同じ値になる場合もある。
  3. HSP値は3つの値を軸に構成される3D空間上の点として表現できる。
  4. 3D空間上の点間距離が違い物質通しは相性が良い(良く馴染む)

どうやってHSP値を求めるの?

 この記事では、髪の毛のHSP値が重要な指標として取り扱われているが、どのように算出したのかについては詳しく記載されていない。恐らく、多種溶媒を用いた実験結果をもとに解析的に求めていると考えられる。
 評価の流れは、おおよそ下記の通りであろう。

  1. HSP値が既知(=空間上の座標が既知)な溶媒を準備する。
  2. その溶媒で何らかの実験を試み、評価試料にとって馴染みの良い溶媒と悪い溶媒に分ける。
  3. 良い溶媒だけが集合する領域を専用ソフトで描く。
  4. その領域の中心を試料のHSP値として求める。

 この2の部分について、髪の毛の構造ごとにそく亭方法を変えて評価している。

毛髪外部(キューティクル):

毛髪を溶媒に浸けたときの表面の状態変化を走査型電子顕微鏡SEM)にて評価

記事には引張試験とも記載されていたことから、毛髪の引張強度と溶媒浸透度合のダブルの視点で良い溶媒と悪い溶媒を選別していると思われる(この場合、溶媒が浸透して引張強度が低いものが良い溶媒と考えられる)。

毛髪内部(コルテックス)のHSP

毛髪を溶媒に浸けたときの内部構造の変化を高圧示差走査熱量測定にて評価

熱量測定をかじったことがないので予想の域を出ないが、溶媒浸透によるタンパク質構造変化をモニターしていると想定している。

HSP値からなにが分かったの?

 記事によると、毛髪の外部(キューティクル)は親油性である一方、内部(コルテックス)は親水性のマトリックスの中に親油性のタンパク(ミクロフィブリル)が含まれる構造になっているらしい。

HSP値をどう活用するの?

 HSP値のポイントの部分で説明した「点の距離で馴染みやすさを議論する」ことがここで活用できる。具体的には、毛髪成分のHSP値に近くなるような材料設計が次の手だてであろう。例えば毛髪内部のマトリックスに浸透させたい場合であれば、マトリックスHSP値に近い親水的な材料を探せば良いことになる。しかし、毛髪外部が親油性であることを考えると100%親水的でもダメであることは明らかであり、親油性とのバランスが大事になってくる。となってくると、界面活性剤のアプローチになりそうと予想する。HLB値との関連性も気になるところ。