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書籍要点「キャリアデザイン入門[II](専門力編)」

こちらのまとめも、あわせてどうぞ。
書籍要点「キャリアデザイン入門[I](基礎力編)」 - めも箱

1. プロフェッショナル・キャリア

概要:プロフェッショナルとは、「経験によって積み上げられた高度な知識や技術を持ち」「その道を自分の専門領域としていくという覚悟を決めて」「高い職業意識を持ち合わせている」人である。プロには3つの型と、5段階のプロセスがある。

1.1. プロフェッショナルになるということ

1.1.1. 「プロ」ということ

5つの古典的定義があり、以下のような意味合いで使われることが多い。

  • その仕事で生計を立てていること(生業)
  • 仕事に対する真摯な姿勢のこと(プロ意識)
  • 独占的権限を持っている集団のこと(要国家資格業務)
  • 玄人のこと(素人と対になる言葉)
  • 熟練の技を持つ職人のこと(匠)

現在使われている「プロ」という言葉は、これらの組み合わせで定義されている。様々な職業領域で「プロ」が求められ、企業内での「プロ」のことを「ビジネス・プロフェッショナル」と定義している。

1.1.2. ビジネス・プロフェッショナルの登場

ビジネス・プロフェッショナルを理解する上で、「スペシャリスト」とのの違いを理解しておく必要がある。

スペシャリスト】
領域がある程度制限された仕事の一部を担当し、一人前になった後の成長は「正確さ」や「効率化」に限定される(課業の専門化)。

【プロ】
専門性が高くなるにつれて、自分で概念的な定義を加えながら成長し、満足することがない(人の専門化)。

1980年代の日本企業のなかで管理職になれない人の代替ポストとして「専門職」というものが出来た。プロ=専門職というイメージが出来上がってしまっているが、単なる昇進は「プロ」とは異なることを留意しておきたい。

1.1.3. プロの3つのコース
  • エキスパート型(特定技術のプロ)

「V字型人材」とも評されるが、他の分野への応用できる力があってはじめて「エキスパート」と呼べる。

  • ビジネスリーダー型(経営のプロ)

株式市場、顧客、従業員への対応の三大要求に応えられる力が求められる。

  • プロデューサー型(創造・変革のプロ)

資金や人材を投資して回収する力が求められる。キャリアパスとして今後有力な道になると予想されている。

1.2. プロの条件

1.2.1. プロとしての知識と技術

最低条件として「○○のプロ」と呼べるような専門知識を、知識および技術(「わかる」と「できる」)という両方の観点で身につけておく必要がある。
この時、公式で普遍性のある「知識」に対して、その会社でしか活用できないような知識「企業特殊能力」を切り分けて考えなければならない。また、技術は再現性がもとめられる。

1.2.2. プロフェッショナリズム

プロならではの行動様式や意識のことをプロフェッショナリズムと呼び、3種類ある。

  • オーナーシップ

当事者意識を持つこと

  • 利他性

誰かの役に立つこと

  • 職業倫理

プロとしてやってはいけないことを守ること

1.3. プロになる道筋

1.3.1. 守破離

いまあるものをこれからも続くように守ることであり、師について"型"を学ぶ時期

現実により対応するために、これまでのあり方を破砕し、自分なりの新しい方法にアレンジする時期

型に縛られず、その職業の代表として信念に基づいて活動する時期

1.3.2. 一万時間

よく考えられた練習が必要であり、そのための条件がある。

  • 適度に難しく、明確な課題と向き合っていること
  • 結果に対するフィードバックがある
  • 類似課題を反復できる(誤りを修正する機会がある)

継続するためには、以下の条件が求められる。

  • その仕事が好きであること
  • 負けず嫌いであること
  • 周囲に同じような挑戦者がいて、良き指導者がいること
1.3.3. 3つの自己認識

プロになるためのプロセスを心理面で考えると、それぞれに影響しあう以下3つの認識が重要である。

  • 自分は何者であるかという自己認識
  • 何が出来て何が出来ないかという自己認識
  • 他者からどう見られているかという自己認識
1.3.4. 5つの階段
  • 仮決め/見習いの段階

とりあえず今の仕事で一人前になろうと思っている段階で、仕事の基本のやり方を習得する段階
知識や技術視点:積み上げを開始

  • 腹決め/独り立ちの段階

その道で自分のキャリアをつくってプロを目指すと決めた段階(「守」の段階)
知識や技術視点:とりあえず必要なものは身につけているが、経験や場数は不足

  • 安定/活躍の時期

プロの入り口で、どのような状況であっても期待通りの成果があげられる段階(入社後10年程度)
知識や技術視点:同業他社でも即戦力

  • 開化/個性化の段階

自分なりの付加価値を仕事に付与することができ、個人としての存在感が際立ってくる段階(「破」の段階)

  • 円熟/無心の段階

その道を極め、第一人者として社会的に認められている段階(「離」の段階)

1.3.5. プロ意識を向上させる経験
  • 退路が断たれる
  • 成功と評価
  • 視界の変化
  • 一流に触れる

1.4. プロとして生きる

1.4.1. 余人をもって代え難し

誰にでもできるのであれば、価値はない

1.4.2. ゼネラリストの誤解

ゼネラリストにならないと出世できないと思い込んでいる人が多い。実際には、経営のプロを目指したトレーニングが必要であり、数多の部署を異動してきた経験があるかどうかは無関係である。

1.4.3. 才能の開花

育てる側にも課題がある。「筏下り」から「山登り」に変化した後は「集中」と「放任」の判断が大事(啐啄同時)である。

1.4.4. イノベーター

イノベーションの起点はデータ分析の結果ではなく、「(筋のいい)信念」と「説得力」にある。


2. 専門力の磨き方

概要:専門力には専門知識と専門技術があり、専門知識は書籍やセミナーなどで身に着け、専門技術は師弟関係の中で真似ながら磨いていくことが重要である。プロになってからの学習方法は「吸収する学習」から「考える学習」へと変わる。プロの専門力を証明する手段として、学位取得、著書・論文執筆、資格取得などがある。

2.1. 専門知識を磨く

  • 知識の基盤をつくる読書

良質な(易しい記述、網羅的、参考文献の充実)入門書からはじめ、関心を持った領域の参考文献にあげられているようなある程度実用的な本で深堀していく。ある程度基盤ができたら、「調べながら」「一度に集中的に」読みながら、アウトプットを意識してさらに枝葉をつけていく。

講師が専門書執筆者のようなセミナーや講座を聴講し、書籍や資料と並行して学習を進める。

  • 大学等への通学

社会人向けの専門職大学院を活用し、実務と理論を結びつける。

  • 勉強にかかるコストと助成

会社の自己啓発応援のための助成制度等を活用して、コストに見合った方法を選択する。

  • 知識の体系化とアップデート

プロとして認知される段階までに、その世界の常識とされることは知っておかなければならない(その手段として1.に挙げた読書の方法等を参考にする)。その上で、主要な最新情報を取捨選択しチェックしておく。

2.2. 専門技術を磨く

  • 師弟関係

会社生活で重要視される知識の共有の本質は、人間関係である。「守」の段階で、師と仰ぐ人(メンター)を見つけ真似ることが重要である。師から学んだことは、何度も何度も繰り返し実践して、体に定着させ、考えずとも自然に行えるようになるまで練習する。

まず、師弟関係内での最初の段階(真似して覚える段階)は、暗黙知から暗黙知へ変換する「共感」プロセスである。その次の段階(身に着けたものを形にする段階)として、暗黙知から形式知へ変換する「概念化」プロセスがある。

  • 経験を積み上げる

形式化にしたものは積極的に公開しながらより大きな形式知へと「結合」させ、最終的には一連の形式知をノウハウとして次の暗黙知に「具現化」する。この一連のプロセスを繰り返し実行することで、「直観力」が鍛えられ「開眼」に達することができる。

  • 仮説-検証プロセス

課題解決のプロセスには、必ず「仮説-検証」プロセスが含まれる。まず、仮説を設定し(この時、想定される答えを予め想定しておくことが大事である)任意の手段で検証し、正しいプロセスで論理性を担保しながら仮説を証明する。もし検証結果が想定した答えを支持しないものであれば、課題を再設定し深堀りしていく。この行動を習慣化することで、対課題能力が培われ専門力の向上につながる。

  • 「目標」から「テーマ」へ

プロになった以降も技術を高めていく行為は継続されるが、もはや目標を設定しないという大きな変化がある。その代わりに、「目標」よりも抽象度の高い「テーマ」設定し、自分のミッションとする。

2.3. 考えるスタイル

  • 吸収する学習から考える学習へ

本の読み方に大きな差が現れる。アウトプットする目的を持った読書は基本となる読解方法であるが、考える学習では自分で情報を取捨選択しながら、批判的に読むようになる(前述の「結合」プロセスに該当)。

  • 5つの考えるスタイル
  1. 読む
  2. 書く
  3. 話す
  4. 描く(私はこれ)
  5. 歩く
  • コンセプト化

コンセプトとは「新たな視点で知識の接続を見つめ、名前をつけたもの」であり、新しい知識の創造を促進する触媒のようなものである(サーチライトと評する人もいる)。取り組むべき目標が明確にならないのであれば、それはコンセプトではないということだろう。

  • 一般教養の価値

発想に広がりを持たせ概念的な思考力を高める手段として、一般教養(歴史、哲学、文学、芸術など)を豊かにすることが有効である。

2.4. 専門力の証明

  • 教歴そして著書や論文

形式化した知の具体的なアウトプット:

  1. 教歴
  2. 著書、論文
  • 資格取得

種類や形態が様々である。取得することを目的とせず、自分が欲しいスキルに対して有効な資格を取得することが大事である。

  • プロフィール

折に触れて、以下の項目で200字程度にまとめると、自分のキャリアを客観的に把握しやすい。

  1. 最終学歴、取得学位
  2. 職歴
  3. 所有資格、受賞歴
  4. 公的役職の履歴
  5. 教歴
  6. 著者、論文
  7. 主な業績や作品
  • 個人ブランドと人的ネットワーク

人的ネットワーク(人脈)を通して、プロの第4段階(「破」の段階)から個人ブランドが形成されはじめる。個人ブランドの判断基準は外部から自分指名の仕事がどれだけくるかどうかである。

3. キャリアデザインの方法(30代後半から)

概要:40代は最も脂の乗った仕事ができる時期であり、プロとして完成するときである一方で、チャンスとピンチが常に隣接した状態でもある。若年期以上にキャリアデザインが重要なときで、定年以降をにらんだ準備も必須である。

3.1. 実践・中年期からのキャリアデザイン

  • 成長の停滞

「筏下り」から「山登り」へ種目変更しなければ、成長は止まってしまう。管理職昇進を目指すことは手段のひとつであるが、個人としてキャリアデザインをどう考えるかが重要である。

  • 山を決める-キャリアマップの作成

山を決めるうえで有効なツールな、キャリアマップを作成して考えを整理する。

  1. 得意なこと
  2. やりたいこと
  3. 価値を感じること
  4. 専門性
  5. リーダーシップ
  6. 制約要件
  7. チャンスの認識
  8. 組織からの期待

3.2. 30代後半から40代に直面するイベント

ミドル期の最大のイベントとして管理職昇進があげられるが、その背景は大きく変化した。すなわち、いまや管理職昇進はすべての人に訪れるイベントではなく、自らの業績推進を引き続き継続するというプレイングマネジャーとしての形が多い。管理職昇進はプロとしての階段をどこまでも上がっていこうと思えば、結果的に叶うものである。

  • 技術の円熟と世代継承

充実期のなかで、次の世代に何かを残したいという世代継承心が現れるのは、順調にキャリアを積んでいる証である。

  • 重い責任とストレス

一言一言の発言に影響力が出てくるのもこの時期の特徴であり、責任ある立場ゆえのストレスに悩まされる時期でもある。自分の発言の軽重を客観的に見つめる意識を持つ。

  • 体力の低下と働き方の変化

時間管理能力の更なる向上が必要となる。自分にしかできない仕事のみに着手できるよう、他人を頼る力がここで活きてくる。

  • 価値観の変化と迷走-人生の正午

自分の才能や残りの時間を意識するようになり、人生の「午後」をどう過ごすかを考え始める時期である。

  • 社内に残るか社外に活路を見出すか

プロフェッショナルの持つ専門力は、高井一般性があり社内外に限らず高い市場価値がつくものであり、他社に移るのはさほど困難なことではない。そのなかで「多くの部下を持ち、事業運営の重要な判断をしてきたマネジメント経験」や「新商品の立ち上げを指揮したプロデューサー経験」等の高い経験質を持っている人は重宝される傾向がある。

3.3. 50代のキャリアデザイン

  • 山登り後の選択

専門領域を決め、プロとして飛躍を遂げた後(山登り後)の5つの選択指針
【第1の山】
周辺の山を制覇する(培った経験に関連する技術を足す)
【第2の山】
ゆっくり楽しみながら山を下る(後進の指導にあたる)
【第3の山】
全く異なる別の山に登る(新しい分野に挑戦する)
【第4の山】
また同じ山に登る(蓄積した技術を捨てて再挑戦する)
【第5の山】
湯治で疲れを癒す(リタイアする)

  • 怖いブランクと準備不足

引退の道を選んだわけではないが、仕事をしていない、全力で向き合っていない「ブランク」に留意する。

  • 定年後に生まれる職業価値観

高い役職、給料という動機から、身体を動かしたい、誰かの役に立ちたい等の人間的な欲求へ変化する時期である。

3.4. 生涯現役のキャリアデザイン

  • 定年退職後の分岐

定年後に生まれる職業価値観を元の企業で発揮するということは難しく、同時に高齢者の雇用機会も減っていることを考えると、独立・開業という道が最後の手段である。しかし、定年後に着手するのでは遅く、50代で予め準備をしておく必要がある。

  • 「統合」の段階

これまでの人生の経験を統合するとともに、能力・身体の崩壊から来る絶望や家族や親交のある人との死別から来る絶望と闘う段階であり、それを乗り越えて「老人的超越」に達する。